給与を取り上げ、裸で仕事をさせる――。

 勤務先の後輩への恐喝罪などに問われた元会社員の男に対する高松地裁の公判で、男による常軌を逸した数々の「職場いじめ」が明らかになった。

ミスの叱責(しっせき)から始まり、いじめは10年以上続いた。

なぜこれほどエスカレートし、誰も止められなかったのか。

(畝河内星麗)  男は51歳の被告(高松市)。

起訴状では、被告は昨年6~9月、当時勤務していた香川県内の金属加工会社の後輩男性(44)から計84万円を脅し取ったとされる。

被告は2月の初公判で起訴事実を認めた。

 男性の証人尋問や被告人質問などでは、金属加工会社は従業員約40人。

男性は2006年に入社し、約10人いる夜勤の1人だった。

 始まりは、被告がミスをした男性をどなったことだ。

叱責の頻度は増し、09年頃からは殴るなどの暴力が始まる。

ミスをするたび「罰金」と称して金銭を要求するようにもなった。

 やがて、殴るのに鉄パイプを使うようになり、給与の大半も取り上げ始めた。

裸にオムツをはかせて作業させ、大量の水を飲ませてトイレに行くのも禁じた。

勤務先の天井に取り付けられたクレーンにつるして回したこともあったという。

 被告はエスカレートしたいじめについて「何度注意してもミスを繰り返すので嫌悪感が募った」と説明。

男性は「ミスをした自分が悪い」と答えた。

 会社にも問題があった。

同僚の訴えを契機に警察が事件を把握したのは昨年9月。

男性は一度、上司に恐喝被害を訴えたが、被告が「金は預かっていただけで返した」と上司に答え、問題化しなかった。

証人出廷した別の同僚は「いつものことという感じで、誰も騒がなかった」と話した。

 4月23日の公判で検察側は懲役4年を求刑。

弁護側は執行猶予付きの判決を求めた。

起訴後に解雇された被告は、最後にこう謝罪した。

「怒りの感情がコントロールできなくなっていた。苦しく悲しい思いをさせ、申し訳ないです」  判決は今月24日に言い渡される。

 立正大の西田公昭教授(社会心理学)の話「職場では同じ人間関係が長年続きやすく、被害者は辞職以外に逃げ道がないと考え、我慢してしまいがちだ。一方で加害者は刺激に慣れ、暴力が激化しやすい。雇用側の責任は重く、管理職に目配りさせる必要がある」 いじめられた経験「ある」3割  職場いじめは近年、社会問題化しつつある。

 厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられた職場いじめなどの相談は2019年度、8万7570件。

10年度の3万9405件から2倍以上になった。

 企業の従業員8000人を対象にした昨年の調査では、3割がいじめられた経験があると回答。

「精神的攻撃」が49%で最も高く、不要業務の強制など「過大な要求」が33%、私生活に立ち入る「個の侵害」24%と続いた。

 国は昨年、職場いじめの防止措置を大企業に義務づける改正労働施策総合推進法などを施行。

来春には中小企業にも対象を広げる。

写真 2021年5月23日 10時19分 読売新聞