コロナ禍のアメリカで、アジア系に対する差別、暴力が深刻化している。

南部ジョージア州アトランタでは3月、マッサージ店3店で白人の男が銃を乱射しアジア系女性6人が死亡する事件が起きた。

加害者は必ずしも白人ばかりではなく、黒人らマイノリティー(人種的少数派)であるケースも目立つ。

相次ぐ事件は人種差別に女性蔑視が重なり、複雑で根深いこの国の負の歴史を浮き彫りにしている。

 (アメリカ総局長・岩田仲弘) ◆女性の被害者は男性の2.3倍  アジア系の人権団体「ストップ・AAPI(アジアン・アメリカン・パシフィック・アイランダー)・ヘイト」によると、コロナ被害が拡大し始めた昨年3月下旬から今年2月末までのアジア系への憎悪犯罪は3795件で、女性の被害者は男性の2.3倍に上った。

 トランプ氏が昨年の大統領選で敗れ、人種間の融和を訴えるバイデン大統領が就任してもなお、差別、暴力がやまないのは、それほど影響が大きいからだろう。

 ジョージア州立大のロザリンド・チョウ准教授は「米国でアジア系は(中国系や韓国系など)ひとくくりにされ、トランプ氏の暴力的な発言はアジア系全体に対する攻撃を招いた。トランプ氏にあおられた支持者が連邦議会の議事堂を襲ったのと同じだ」と指摘する。

◆従順でエキゾチック 固定化した女性像  アトランタの事件直後、バイデン氏はカマラ・ハリス副大統領とともに現地を訪ね、「あまりにも多くのアジア系市民が道を歩きながら、襲われるのでは、非難されるのでは、嫌がらせを受けるのではないかと心配している。沈黙は共犯であり、声をあげて行動しなければならない」と事件防止を訴えた。

アジア系のハリス氏も第2次世界大戦中に12万人以上の日系人が人種差別により強制収容された歴史を「市民権、人権の明らかな侵害」とあらためて批判。

「人種差別、外国人嫌い、性差別は、今も米国に実在する」と認めた上で「私たちがそれぞれ国民として、いかに品格と敬意を持って人に接することができるかが問われている」と強調した。

 アトランタの事件で男は「性依存症」を抱え、誘惑を断ち切ろうと店を襲ったとして憎悪犯罪(ヘイトクライム)を否定したとされる。

そうだとしても犯行は差別と決して無関係ではない。

男は、アジア系女性を性欲の対象とみなして襲っているからだ。

 「チャイナ・ドール」や「芸者ガール」など、アジア系女性には歴史的に従順、幻想的でエキゾチックといったステレオタイプに基づくイメージが常につきまとってきた。

 チョウ氏はこうした「西洋の植民地主義に基づく画一的な見方」が「太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争や、外国駐留米軍基地周辺の性産業を通じてますます膨らんだ」と分析する。

 ハリウッド映画などの娯楽を通じてイメージはさらに拡散してきた。

「例えば、ベトナム戦争を題材にした映画『フルメタル・ジャケット』の中で、現地の売春婦が『私はムラムラしているの』と米兵に言い寄る場面がある。こうした女性像が大衆文化の中で固定化している」(チョウ氏)。

アジア系の女性は今も「人種」と「性」という二重に増幅された差別に苦しんでいるのだ。

◆真の民主的な社会へ少数派の連帯が必要  シアトルの事件では、加害者が黒人だった。

これまで黒人差別解消を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」の抗議デモで、アジア系が連帯を示す姿を何度も目の当たりにしてきただけにショックだった。

 それでも重要なのは人種間で対立せずに連帯を示し続けることだろう。

1950~60年代の黒人による公民権運動は他の少数派の人権向上に大きな影響を与えた。

日系人が戦時中の差別に対して声を上げ、88年、当時のレーガン大統領による公式謝罪に至ったのも公民権運動に依るところが大きい。

 60年代にシアトルのワシントン大で、黒人学生運動の中心的存在だった市民活動家ラリー・ゴセットさん(76)は、黒人仲間から時に批判されながらもアジア系と連帯して少数派学生の地位向上に努めた。

「差別経験を共有する少数派との協力なしに、真に民主的な社会の実現はあり得ない」からだ。

 相次ぐ事件の結果、少数派間で確執が起こせば、それこそ差別をいとわない白人至上主義者らの思うつぼになる。

 <いわた・なかひろ>>1967年生まれ。

95年入社。

前橋、横浜両支局、政治部を経て2008~11年にアメリカ総局。

千葉支局、外報部両デスクを経て19年5月から現職。

Twitterアカウント@nakahiroiwata 東京新聞 2021年04月24日 12時00分