世界最速のペースで新型コロナワクチンの接種を進め、人口の約半数が少なくとも1回目の接種を済ませたイスラエル。

ワクチン後の社会ルールをめぐる「リアルタイム実験室」となった同国では今、個人の権利と義務、社会全体の利益に関わる厄介な問題が浮上している。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相の内閣は先日、ソーシャルディスタンシング(身体的距離の確保)やマスク着用の義務付けを前提に、 ショッピングモールや博物館の営業再開を決めた。

スポーツジムや文化・スポーツイベント、ホテル、プールも何カ月ぶりかに再開されるが、 誰もが利用できるようになるわけではない。

アメとムチの役割を果たすのが、ワクチン接種を完了させたか、新型コロナウイルス感染症から回復した人に発行される 新たな「グリーン・パスポート」(免疫証明)だ。

21日に再開されたレジャー施設の利用は、このグリーン・パスポート保有者に限られる。

3月9日ごろには、レストラン、イベント会場、会議場が同様のルールの下で再開される。

客や来場者はQRコード付きのワクチン接種証明書を携行しなくてはならない。

市民生活を再開するにあたって、公共の安全、差別、選択の自由、プライバシーといったデリケートな問題とどうバランスをとるべきか。

ワクチン接種で世界に先行した結果、法、道徳、倫理に関わる問題に真っ先に突き当たったのがイスラエルといえる。

「ワクチン接種は道徳的な義務だ。社会的な責任でもある」と語るユーリ・エデルスタイン保健相は、 こんなスローガンを掲げる。

「ワクチン接種を受けない人は取り残される」。

イスラエルで渦巻く議論は他国にも波及しつつある。

国際移動をワクチン接種済みのグリーン・パスポート保有者に限定する計画が各国で議論されるようになっているためだ。

接種率の高い富裕国と接種率の低い貧困国との間で格差を広げると懸念されている。

感染の新たな波を引き起こすことなく現在3回目となっている全国ロックダウンの解除を進めたいイスラエル政府は、 対応面で地方からの突き上げに遭っていた。

労働者階級の多いテルアビブ郊外のバットヤム市にある屋内商業施設は、 国の封鎖措置にいら立ちを募らせ、ワクチン接種済み、もしくは感染から回復済みであることを証明できる客を対象に2月半ばに営業を再開した。

北部ガリラヤ地方のカルミエル市でも、市長が市内の経済活動再開を決めた。

同市では、全従業員が2回のワクチン接種を済ませたか回復済みであることを証明できる企業から、営業再開の許可申請を受け付けている。

ワクチンを接種していない教員の教室への立ち入りを禁じようとしている自治体もある。

ホテル業界では、未接種の従業員に解雇を迫る動きも見られた。

保健法と医療倫理を専門とするハイファ大学のマヤ・ペレド・ラズ氏は、共通善ために個人の自由が部分的に制限されるのは仕方ないという。

同氏によれば、雇用主は従業員にワクチン接種を強制することはできない。

ただ、従業員の全員が接種を済ませていないと事業に害が及ぶ場合には、 接種済みの人だけを雇う行為は許容されるのではないか、と話す。

「個人の権利は多少侵されるかもしれない。ただ、価値ある目的の達成に向けて、 しっかりとバランスのとれた合理的な対応がなされるのであれば、権利の侵害を完全に禁じるべきではない」。

そう語るラズ氏は、レジャー施設の利用は「個人の選択になる」と付け加えた。

「ワクチン接種を済ませた人は利用できる。接種を済ませていない人については、 他人を危険にさらすことになるので利用を許すわけにはいかない」(ラズ氏)というわけだ。